INTERVIEWインタビュー

鬼師を目指して

中学2年生の時、職業体験の授業で実家の仕事を体験しました。その延長で手伝いをするようになり、高校を卒業してすぐに就職をしました。
会社の工場ではプレスで瓦と鬼瓦を作っています。プレス機で作る瓦にも必ず人の手が入ります。
型から出てきた瓦には必ずバリという粘土がはみ出した部分があります。そのまま乾燥すると鋭利で、職人さんの手を傷つけてしまうので、それをへらという道具できれいに取り除きます。また、角面は直角で出てきますが、角を面取りすることによって、かけにくく、割れにくいものとなります。面の部分に傷があってはいけないので、それもきれいにします。それから、瓦と屋根をしっかりと括りつける針金を通す穴や、雨が吹き込んだときに水が抜ける部分の穴はすべて手作業で開けています。
仕上げに5~10分はかかりますが1枚1枚丁寧に仕上げていきます。
それだけでは物足りなくて20歳で鬼師を目指そうと決意しました。粘土をこねるところからすべて自分の手でやってみたいと。修行にも行かせてもらって、日々が学びです。

土は生き物

工場では使っているのは、硬めの粘土。私は柔らかい粘土を使います。でも最初柔らかかった粘土も、仕上げの頃には硬くなっています。その硬くなる時間の見極めが難しいです。季節によっても異なりますし、毎日の温度や湿度によっても変わってきます。乾かないように毛布をかぶせたり、逆に早く乾くように布を外したり、毎日さわりながら様子を見て調節をします。
ものづくりはもともと好きで、細やかな作業は嫌いではありません。でも、趣味でやるなら好きなだけ突き詰めて自由にできますが、仕事となれば当然お客様のご要望やご予算があります。そうした制約の中で、最高のもの、喜んでいただけるものをと、努力しています。

お客さまと直接つながる

瓦の素材で、傘たて、灯篭、名前のプレートなども作っています。マンションでは鬼瓦など無縁のようですが、玄関先にお守りとして鬼瓦を置いていただくことならできますよね。身近に感じてもらえるようなデザインやサイズ、インテリア性も大切です。量産したものに、家紋をあしらったり、屋号をつけたりすると価格を抑えながら家の個性を出すことができます。普通は業者さんとの商売である瓦ですが、これらは直接お客さまと関わることができるという点でもやりがいを感じます。

瓦職人として、意識していること

日々の暮らしの中で、自然に屋根を見上げて瓦を見てしまいます。変わった瓦を見つけると、自分で挑戦してみることも。明治村や昭和村へ行っても、屋根を見ることがとても多くなりました。
屋根に乗っている鬼瓦を見ると、その家のことが少しわかります。例えば、火災除けには水物の鬼瓦が用いられます。風の影響を受けやすい地域だと、雲の柄が用いられていることが多いです。地域によっても違います。
鬼瓦といえば、「鬼面」のイメージが強いかと思いますが、それは非常に特殊なもので、神社仏閣など強い鬼が守らなければいけない建物に使われます。ですから、一般家庭に付けることはまずありません。火災除けや天災除けなどに起因して、雲、植物などいろいろなものをかたどったものが一般的。デザインには意味があるのです。
そういった鬼瓦を作る職人として、大切なのは、神聖なお仕事であると肝に銘じて取り組むことです。
私たちは鬼瓦をいくつも作りますが、お客さまが家を建てるのは普通一生に1軒か2軒ですよね。ですから決していい加減な気持ちで取り組んではいけないのです。その家を一生守る鬼瓦を作らせていただくのですから。この家を護ってね、と心を込めてひとつひとつ丁寧に作っていくのが私たちの仕事だと思っています。

若い世代の方に、瓦のことをまずは知ってもらいたい

昔ながらのものや大きなものは、まだ私の手には負えません。
今は、鬼瓦を知らない人たちに、まず、知ってもらって、興味をもってもらうということがしたいと思っています。
瓦や鬼瓦のことを知らないまま、瓦のない家を建てるのではなくて、知ってもらったうえで選んでもらいたい。選択肢の中に瓦屋根があるかないか、ということが大切です。

私だからできること

コスプレが大好きです。週に一回のお休みは疲れてゆっくりしていることが多いですが、コミックマーケットや、年に一度だけ刈谷で行われるコスプレのイベントには行かせてもらっています。イベントに向けて、衣装を手作りしたり、メイクを練習したりします。アニメキャラクターの瓦を商品化して売り出すときは、そのキャラクターのコスプレをして写真を撮って…。コミックマーケットに瓦の商品を持っていくときには「こんな風に使えますよ」という写真がるとわかりやすいでしょ。実際に、有名な漫画家さんのコミックに出てくる鬼瓦を制作しているところもあります。アニメと瓦のコラボレーションができたら、多くの若い人が集まって仲良くなれる場で、私と同年代の方々に瓦のアピール。そんな夢も描いています。

伝統の踏襲と、新しい発想と

もともと定型の形があって、そこからはみ出すことを、この世界ではあまり好まれてはきませんでした。鬼瓦に花をあしらったものなどを作ると、「こんなの鬼瓦じゃないよ」とおっしゃる方もいます。でも今そういった概念を打ち砕いて、優しかったり、かわいらしかったり、女性的なデザインも取り入れていきたいと思っています。女性ならではの目線で制作したものに、共感してくださる方もいるのですから。
例えば、洋風のかわいい家の屋根に和風の鬼瓦はあいません。でも、そのような家にも対応できる鬼瓦があれば、瓦屋根を選択してもらえるかもしれませんよね。今までは、従来の鬼瓦が合わないならそれでいいよと、なっていたところですがこれからは、私たちが消費者の方に近づいていかなければいけない時代にきているのではないかなと……。
家を守るという鬼瓦の文化を繋いで行くためにはお互いに歩み寄ること、私たちも、消費者の望むものを作っていく努力をしていかなければ、と感じています。
もちろん、伝統をしっかりと守っていくことはとても大切です。ベテランの職人さんたちの技術はすばらしいし、決してなくなってはいけない文化です。
男性中心の業界で、70才、80歳の熟練男性が、まだまだ現役で活躍していらっしゃいます。そんな中で20代といったら、「ひよこ」というよりも「たまご」です。まだまだこれからですが、それでも若い女性として、模索できることもあるのでは……。私ができることを丁寧にやっていこうと思っています。

甍の波を残したい

今、瓦、鬼瓦離れが急速に進んでいます。阪神大震災のような震災があると、瓦は重いとか崩れて危ないとか否定されるのですが、そんなことばかりではないんだよ、というところを知ってもらいたいです。
今は軽量瓦も開発され、ジョイント式になっていて、瓦一つずつをひっかけて滑り落ちないような形のものもどんどん出てきています。危険を回避できるもの、安全なものを作ろうと、皆努力をしています。まずは知ってもらうこと。ホームページなどで発信していけば、瓦の見方を変えていただけるのではと期待しています。